木工職人の話

シェラック仕上げについて

塗装の一つにシェラック仕上げがあります人体に無害と言われていて光沢に優れ、耐摩耗性、密着性、耐久性に優れています。

こちらはケヤキの無垢材で製作した座卓ですが、シェラック塗装の上にガラスコーティングを施して木の特性を妨げないように仕上げました。(詳細は画像をクリック)

シェラックとは?

「シェラック」とは、「ラックカイガラ虫」が豆科・桑科の樹木に寄生して、樹液を吸って体外に分泌した樹脂状物質です。樹木の枝に多くの虫が群集するために樹脂層が一塊りとなって棒状となるので、「スチックラック」と呼ばれています。「スチックラック」を粉砕し、ふるい分けをして水洗し軽い虫殻や木質、水 溶性色素などを除去したものは「シードラック」と呼ばれています。水溶性色素は回収されて「ラックダイ」と呼ばれ、食用色素や染料として使用されていま す。 「シェラック」とは「シードラック」から精製した天然のポリエステル樹脂です。「シェラック(英語shellac)」は、ラックカイガラムシ (Laccifer lacca)、およびその近縁の数種のの分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質です。「シェラック」は「セラック」とも言われます。

「シェラック」は楽器の塗装に古くから使われており手工ヴァイオリンなどにも使用されている塗料で、音に大変良いとされています。「シェラック」の材質は ウレタンやポリウレタンが合成樹脂系であることと異なり虫の分泌物で天然物です。「シェラック」塗装は作業効率が悪いことや、塗膜の光沢感が乏しくベタつ く感があることから限られたメーカーにしか採用されていません。「シェラック」そのものはとても硬い物質で、そのままでは塗料になりませんから塗装する際 に溶液に溶かして使用します。「シェラック」塗装が崩れているのを多く見かけますが、それは「シェラック」そのものが問題でなく、溶液とその使い方に原因 が あります。又別の要因で「シェラック」そのものがギターケースの内装材と化学反応を起こし、塗膜が崩れることもあります。 「シェラック」塗装で良い方法は純粋な「シェラック」をアルコールで溶かして塗装する手法です。この手法で塗ると混合物がなく、比較的塗膜が強く上記のよ うな状況は避けられます。この方法は少しずつしか塗装できない為、大変手間のかかる作業になりコストが 高くなってしまうのが難点ですが、「シェラック」塗装をする上では最も良い方法だと思われます。しかし、樹脂系の塗装と比べると塗膜がデリケートであるこ とは事実で、メンテナンスに注意が必要です。とりわけ「シェラック」塗装は熱に弱いことから炎天下の車中などは厳禁です。 音創りの上で塗装は大切ですが、楽器製作そのものが最も重要で 塗装だけで良い音が出ることはありません。「良い楽器製作」と「良い塗装」があって良い音が生まれます。 「シェラック」塗装されたギターを手入れする際、ポリッシュによっては 化学反応を起こす場合もありますので注意が必要です。息を吹き掛けて布でカラ拭きする程度で良いでしょう。   

「シェラック」はインド、パキスタン、ネパール、タイ、ミャンマー、中国南部、台湾など、熱帯アジアに広く分布する体長約0.6〜0.7mmの「ラックカイガラ虫」から採取される分泌物から作られます。「 ラックカイガラ虫」は特定の樹木に寄生し、その樹皮から樹液を吸って生活していて、自らを守るために樹脂状物質を分泌します。 樹木の小枝に、この「ラックカイガラ虫」の分泌物が付着したものを「スティックラック」と言います。 「スティックラック」を粉砕し、虫の殻・糞・土などのゴミを取り除き、水洗いし粒状にしたものを「シードラック」、さらに、これを熱・アルコール・アルカリなどで薄膜などに精製・加工したものを「シェラック」といいます。 また、大型のボタン状に加工したものを「ボタンラック」と言います。 ちなみに「シェラック」という言葉は「シェル(分泌物が貝殻状という意)」と「ラック(昆虫がたくさんという意)」の組み合せに由来しています。 この「シェラック」をアルコール系溶剤に溶解して塗料化したものが「シェラックニス」です。シェラックニス自体はその塗膜の硬さから、単体でヴァイオリンなどの弦楽器に塗られる事は少ないです。 通常「シェラックニス」は、溶解する「シェラック」の色素によって黄橙色〜赤褐色をしていますが、「シェラック」を漂白した「白ラックニス」と呼ばれるものもあります。

「シェラック」自体の歴史はかなり古く、紀元前2千年ころ中国で「シェラック」に含有する色素が染料に使用されたといわれます。 日本にはその中国から渡来し、奈良・正倉院北倉に「スティックラック」が「紫鉱」という名で約8kg残っているそうです。当時、こちらは染料としてではなく、外用薬として使われていたとされています。 その後「シェラックニス」が日本で工業的に使用されたのは、明治10年頃から洋家具の塗装に使用されたのが最初と言われています。 それ以降、石油化学の発達につれて合成樹脂万能の時代となったため、一時期「シェラック」の需要は減り続けていたそうです。 しかし、最近では染料やニスとしての塗料用途だけでなく、化粧品・医薬・食品など用途が広がってきているようです。

上がブロンズ・シェラック / 下がオレンジ・シェラック

シェラックの特性

  1. 乾燥が早く、塗膜が堅くなります。
  2. 黄変 ( 黄色く変色 ) がありません。
  3. 無味無臭で人体には無害。
  4. 光沢に優れ、耐摩耗性、密着性、耐久性に富みます。
  5. 天然樹脂としては唯一の熱硬化性樹脂です。
  6. 常温でアルコールにゆっくりではありますが良く溶けます。
  7. 熱に容易に溶融しますが一度熱硬化したあとは、熱や溶剤にも侵されなくなります。
  8. 強靭な耐油性があります。
  9. 電気的に不導体です。
  10. すぐれた耐摩耗性があります。
  11. 水に不溶であり、アルコール以外の有機溶剤にはほとんど溶けません。

シェラックの長所

まず大きな長所が人体に対する影響が少ないということです。食品、医薬品、化粧品にも使用されます。
食品では粒状チョコレートの表面をツルツルにしたり、柑橘類をツヤツヤに見せる保護皮膜材、レモンやチーズに印字する際のインクにも使用されます。
医薬品としては、酸に強くアルカリに弱いことから胃では溶けずに腸で溶ける錠剤に使われます。(腸溶性皮膜材)ニオイをよく遮断するので、錠剤にコートして薬臭さをカバーするのにも使用されます。
化粧品としてはマニキュア、マスカラやヘアースプレーなどにも使用されるそうです。
これらの項目を見ても誰もがいままでシェラックを食べたことがありますよね。(^^)

シンナーなどの有機溶剤を使用しないので、環境にも人体にもやさしいです。とくに欧米ではHAPS(大気汚染物質)やVOC(有機揮発物質)についての規制が厳しいです。
油性、水性、どちらの仕上げとも相性がいいです。一部の文献では相性が悪いと書いていますが、ブロンズ以上の精製度で、dewaxedを使用すれば問題ないです。
渋い艶消しから鏡面のようなピカピカ仕上げまで、方法によって使い分けられます。
ホルノアルデヒドもよく遮断します。(これは手作り家具には関係ないですけど。)
引き出しの外側などにオイルや油性ウレタン仕上げをすると温度、湿度によって引き出しが固着してしまうことがありますが、シェラックですとこれもありません。

ケヤキの無垢材から製作した料理用サラダボール。シェラック塗装、ガラスコーティング(詳細は画像をクリック)

シェラックの短所

シュラックはアルコールを溶媒にするのは前述の通りです。これは可逆性の反応です。 したがって溶媒に出会うとまた溶けます。したがってアルコールには弱いです。
ただしこの短所が時には長所になります。失敗してももう一度アルコールで拭いてやり直す ことが可能です。ムラになったり、液だれしたまま乾燥してしまったときでもやり直しがができます。
以上の理由からテーブルの天板には向きません。(特に我が家のテーブル)(^^; ただテーブルの天板でもトップコートではなく下地には使用できます。 水分にも弱いと書かれている文献もありますが、それはシュラックの種類と溶媒の種類によります。ブロンズ以上の精製度のDewaxedと純度の高いアルコールの組み合わせは水にも強いです。
脱脂したシェラックでは油性、水性、どちらの仕上げとも相性がいいです。 乾燥があまりにも早いのでそれがかえってムラになったりします。その場合は気温の低いときに 作業をしたり、溶媒を多めにして薄くしたり、リターダー(おそらく中身はブチルアルコール)と呼ばれる乾燥のやや遅い溶媒が発売されているので、これを利用したりします。

シェラックの生産

 インドタイなどの東南アジア南アジアで「ラックカイガラ虫」を養殖しています。「ラックカイガラ虫」は体長1cmに満たない「カイガラ虫」の一種であり、 様々な比較的広い範囲の種類の樹木に集団で寄生します。「カイガラ虫」は一般に体表から分泌する蝋質、あるいは樹脂質の虫体被覆物で体を保護しています が、「ラックカイガラ虫」の場合は、この集団内で体表から分泌する虫体被覆物が互いに融合し、宿主樹木の小枝を取り囲む棒状になります。この棒状の塊を粉 砕し、熱、あるいは溶媒を用いて虫体被覆物を構成する樹脂状物質を抽出したものが「シェラック」です。

シェラック溶液の作り方

まず「シェラック」をアルコールに溶かします。ここで「カット」(CUT) という単位を使用します。「割る」という意味です。「 シェラック」1パウンドを1ガロン ( 1gallon = 3.8L )のアルコールで溶いたものが「1カット」です。「シェラック」が2パウンドだと「2カット」になります。数字が大きくなるほど溶液が濃くなります。目安 としては「シェラック」12gにアルコール100ccが約「1カット」です。

「 シェラック」の粉末をガラスビン等に入れてアルコールを注ぎます。このまま一晩置きますと、すっかり「シェラック」が溶けます。「シードラック」など精製 度の低い「シェラック」を使用する場合は、この後コーヒー用の紙フィルターなどで不純物を濾過しますが、「オレンジシェラック」以上の精製度では必要ない でしょう。 慣れてくれば計らなくても塗った時の感覚でわかります。3〜4カットぐらいの濃いめの溶液を作っておき、あとは用途に合わせて使う直前にアルコールで割り ます。使用後、余ったシェラック溶液は6ヵ月をメドに使い切りましょう。

シェラックの塗り方

下準備

下地を最終1000番まで丁寧にサンディングします。

塗り(1回目)

1〜2カット程度で濃いめの「シェラック」を塗ります。

1時間乾燥させます。

塗り(2、3回目〜)

400番で軽く表面のザラザラをサンディングします。

次に1カット(「シェラック」12gにアルコール100cc )の「シェラック」を塗ります。

1時間乾燥させます。

お好みでこの作業を数回繰り返します。

仕上げ

二日後、600番と1000番で軽く表面のザラザラをサンディングしたあとにワックスを塗り、拭き取ります。

保存方法

シェルフタイム(棚時間)といって、「シェラック」はアルコールに溶いた状態では長期保存はできません。 目安としてはだいたい半年と言われていますが、「シェラック」の精製度、アルコールの種類や純度、保存状態によって前後します。

古くなると乾燥が遅くな り、粘度が高くなります。何か月も経って古くなった「シェラック」溶液を使用するときは、試し塗りをして乾燥するかどうかを確認することをお勧めします。 既に出来上がったギターで「試し塗り」をしないように。 一般的には使う前日にアルコールに溶くのが望ましいです。

シェラックの用途

シェラックは万能選手です。前述のように日常使用されるテーブル天板のトップコート以外はほとんどの用途に使用できます。
色を付けたければ純度の低いものを。クリヤーにしたければブロンズ以上の純度の高いものを使用します。これらは油性ボリウレタンのように黄変しません。

下地処理(サンディングシーラー)としての使用

この用途はシェラックの得意とするところです。初めは1カットのシェラックを塗ります。 2回目は1〜2カットを塗ります。これだけで木材の表面はツルツルで非常に滑らかになります。 スーパーブロンズを使用すれば色は全く付きません。黄変もしません。 このあと油性でも水性でも、ラッカーでもポリウレタンでも好きなフィニッシュを塗れます。 水性塗料の下地にするときはDewaxedを使用したほうが白濁などのトラブルが少ないです。

目止め、節止め、ヤニ止め(フィラー)としての使用

濃いシュラックを使用すればかなりの隙間もうめることが出来ます。この場合は3カット以上を 使用します。緩んだ節などもかっちりと押さえることができます。

仕上げ材(トップコート)としての使用

酷使されるテーブルの天板以外はシェラックを仕上げとしても使用できます。 仕上げ方法によって、顔が写るほどピカピカの鏡面仕上げ(フレンチポリッシュ)から 艶消しの渋いものまで自由自在です。塗膜の厚さも塗り重ねる回数によって自由にコントロール できます。

様々な用途

様々な用途で使われる「シェラック」ですが、まず、その「シェラック」の以前の最大利用用途と言われるもので、アナログ(LP・SP)レコード盤がありま す。これらには「シェラック」にカーボンブラックを混ぜたものが使われました。 又、「シェラック」のワックス分は、チョコボールやチューインガムのコーティングにも使われます。「シェラック」でコーティングしてあると、手で触っても ベトつかず、その艶のある強い被膜のおかげで製品同士がくっつかず、品質・風味を長く保つことができます。 又、酸に強いという特性から、胃で溶けず腸で溶けるようにした医薬品(糖衣錠)のコーティングとしてもこの「シェラック」のワックス分が使われています。 さらに、ヘアマニキュアなどの化粧品、フルーツワックス・カーワックス、アルミフォィル表面のコーティングなど、日常生活のあらゆる所で利用されていま す。 古くからのギター塗装用と言うと、なにか「神秘的な」「とっつきにくい」感じがあるかもしれませんが、身近な所で多く使われていれば、逆に親近感が増すでしょう。

こちらは米ヒバで製作したバーベキューガスコンロ台です。シェラックを塗った後に、外用オイルフィニッシュで仕上げました。(詳細は画像をクリック)

シェラック取扱・保管上の注意事項

  1. 取扱後、手洗い・うがいを行って下さい。
  2. 目に入った場合は優良の水で洗い、出来る限り早く医師の診断を受けて下さい。
  3. 誤って飲み込んだ場合には、出来る限り早く医師の診断を受けて下さい。
  4. 皮膚に付着した場合は水で洗い落して下さい。
  5. 本品は着荷次第出来る限り早くご使用下さい。
  6. 保管はフタをして一定の場所を定めて保管して下さい。
  7. 日の当たる場所、その他昇温する場所を避けて保管して下さい。
  8. 子供の手の届かない所に保管して下さい。
  9. 中身を使い切ってから廃棄して下さい。
  10. 日光の直射を避け、温度25度以下、湿度75%以下で保管して下さい。
  11. 酸、アルカリ等の接触を避け、混入の恐れがないように注意して下さい。

以上、長文になってしまいましたが、シェラックは自然の塗料なので安心ですね。適材適所に使うと良いでしょう!

  • この記事を書いた人

かなもく

1961年東京都町田市で生まれ育ちました。 子供のころはまだ町田にも田んぼや畑が沢山あり、自然にあふれた町でした。 泥まみれで良く遊ぶ元気な子供でしたね。 この伊豆に来たのは1994年(平成6年)です。1996年(平成8年)に近所にある家具工房に務める様になり、そこで14年間近く務めました。 そして2010年に独立、今に至っています。

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